今回のssyブログでは、短距離を速く走るための下り坂トレーニングについて書いていきたいと思います。
短距離を速く走るためには、トップスピード(最大疾走速度)を高める必要があります。
では、トップスピードを高めるためにどのようなトレーニング行っていますか?
いろいろと方法論としては、あると思いますが、私が考えるのは、下り坂でのオーバースピードトレーニングです。
下り坂走るだけでしょ?と思われるかもしれませんが、これが意外に難しいのです!!
では、下り坂を走ることでどのような効果を期待するのかも含めて、トップスピードを高めるために、という視点で書いていきます。
参考になれば幸いです。
下り坂トレーニングで疾走スピードは高まるのか
下り坂を走ったことがある方はいらっしゃいますか?
私自身、学生時代は下り坂トレーニングを週2日走っていました。
下り坂トレーニングだけのおかげではないですが、かなり効果を感じることができ、タイムの短縮にも大きく影響があったと感じています。
でも、実際どうなの?と思われる方もいらっしゃると思いますので、詳しく書いていきたいと思います。
下り坂トレーニングで期待するトレーニング効果
下り坂トレーニングは、文字通り下り坂を走るため、平地を走るよりもオーバースピードでのトレーニングになり、ピッチ、ストライドともに向上し、結果的にトップスピードを高めることにつながると感じていました。
では、実際はどうなのでしょうか?
Tziortzis(1991)の研究では、8度の下り坂で12週間のスプリントトレーニングを実施した場合、ストライドが1.4%増加し、最大疾走速度が2.1%増加したと報告されています。
また、Paradisis & Cooke(2006)の研究では3度の下り坂で6週間のトレーニングを実施した後、ピッチが2.3%増加し、最大疾走速度は1.1%向上したと報告されています。
以上の報告から、下り坂トレーニングは、トップスピードを高めるために大変有効なトレーニングのひとつだと考えています。
でも、本当に速く走れるのか?と疑問を持ちたくなりますよね。
こんなに楽にピッチと、ストライドが向上して、トップスピードが高まるのか?
という話です。
私は、下り坂トレーニングも技術トレーニングの一環だと考えています。
技術が伴わないトレーニングでは、効果を期待することは難しいと考えています。
下り坂トレーニングはスプリントにおける技術トレーニング
当たり前ですが、下り坂を走る際に、平地よりも重心が前にある状況です。
かつ、下り坂という自然的な補助を用いることによって,選手が自身の持つ最大スピードを上回るスピードを人為的に作り、そのスピード感を取り入れることができます。
これをスプリント・アシステット・トレーニングと言います。
平地よりも重心がより進行方向にある状態というのは、平地に比べ進行方向に対して、バランスをとっている状況です。
その為、重心が前方方向に進みやすい状況をつくっている=重心移動が行いやすい状況です。
この状況をうまく利用ことにより、重心移動するスピードが高まるので、自ずとピッチがあがらないと走れない状況をつくり出しています。
また、それだけ重心が前に進みやすい状況なので、脚のスイングスピードも高まらないと、次の接地の準備が間に合わず、転んでしまうのです。
つまり、強制的にピッチを上げざるを得ない状況をつくり出せているのです。
ピッチがあがるということは、それだけ地面に対して体重をしっかりと乗せられているということにつながるため、自ずとストライドも向上されます。
下り坂トレーニングは、平地走と比べ重力をより利用できるため、水平方向への蹴り出しが可能になることも相まって、平地でのトップスピードよりも高いスピードでの疾走を引き起こしやすくするものだと考えられます。
また、下り坂トレーニングにより、技術を高められる状況で走ることができると考えており、かつ技術が高まらないと、下り坂を走ってもスピードが高まらないと考えています。
下り坂トレーニングで得られる接地の技術①
平地に比べ下り坂の方が、重心が進行方向に預けられやすい状況のため、
もし重心を前に預けることができず、後ろ乗り(へっぴり腰)になっている状態で走ると何が起こるかというと、地面に接地する脚が、重心よりもとても遠い位置についてしまうことで、ブレーキをかける時間がとても長くなり、スピードを高めることが難しくなってしまいます。
(福田と伊藤,2004)の研究では、身体重心に対する接地位置の近さと疾走速度との間に、有意な相関関係はみられなかったという研究結果もあります。また、トップスプリンターになればなるほど、接地時のブレーキ力も推進力も大きかったことから、相対的に速く動く地面に対して、短時間のうちに大きなブレーキと推進力を発揮できることの重要性が報告されています。
詳しくはコチラ↓
下り坂トレーニングで得られる接地の技術②
個人的には、坂ダッシュでピッチが高める感覚と共に、脚がすぐにスイングされる、つまり股関節屈曲速度が非常に高まる感覚があります。
つまり、脚が流れにくくなるということです。
もしかすると、多くの方も同じような感覚をお持ちかもしれません。
では、実際どうなのかを見ていきましょう。
(Paradisis and Cooke, 2001)では、下り坂走において、四肢の可動域が拡大しストライドと最大疾走速度が増加したことが報告されています。
この際、下り坂走での接地時における左右大腿部に対する角度が有意に減少していることから、遊脚の股関節屈曲速度が高まったことを示唆しています(Paradisis and Cooke, 2001)。
ということは、つまり下り坂トレーニングは、遊脚のスイング速度を高める効果を期待するに有効であると考えられるのではないかと思います。
どういうことかというと、脚が流れている暇はないということです!!
脚が流れにくく、素早くスイングされやすいのです。
下り坂トレーニングのまとめ
下り坂トレーニングは、短距離を速く走るためには、非常に有効なトレーニングです。
ですが、傾斜3~5度ぐらいまでの下り坂でのトレーニングをお勧めします。
あまりに急勾配な傾斜だと、接地位置が重心よりも遠い位置でつきやすく、ブレーキ時間が長くなり、スピードを高めることが難しいと考えています。
また、下り坂トレーニングは、技術トレーニングであると考えています。
接地時間を短くし、一瞬で大きなブレーキをかけることができるようになり、かつ股関節の屈曲速度を高めることができるでの、結果的にピッチが上がると考えています。
そして、それに平地よりも伴い重力を利用しやすく、水平移動を高め、ストライドを伸ばすことにも有効です。
その結果、トップスピードが高まると考えています。
ただし、これも身体ポジションがどうなっているのかが非常に大切になってくるので、後ろ乗りにならないように、下り坂を利用して重心を前に預けながら走る感覚を持つことが大切だと考えています。
参考になれば幸いです。
参考文献
・Paradisis, G. P., & Cooke, C. B. (2001). Kinematic and postural characteristics of sprint running on sloping surfaces. Journal of Sports Sciences, 19(2), 149-159.
・Tziortzis, S. (1991). Effects of training methods in sprinting performance (Doctoral dissertation, Doctoral Dissertation. University of Athens, Dept. of Physical Education and Sport Science, Athens, Greece).
・Paradisis, G. P., & Cooke, C. B. (2006). The effects of sprint running training on sloping surfaces. Journal of Strength and Conditioning Research, 20(4), 767.
・Paradisis, G. P., Bissas, A., & Cooke, C. B. (2009). Combined uphill and downhill sprint running training is more efficacious than horizontal. International Journal of Sports Physiology and Performance, 4(2), 229-243.
・福田厚治 & 伊藤章. (2004). 最高疾走速度と接地期の身体重心の水平速度の減速・加速: 接地による減速を減らすことで最高疾走速度は高められるか. 体育学研究, 49(1), 29-39.