今回のssyブログでは、短距離を速く走るための理想の接地について書いていきたいと思います。
何故、今回接地について書いていこうと思ったかと言うと、よく真下で接地しないと言われることはないですか?
私の時代は、つま先で接地しなさいと言われることが主流で、つま先ってしんどくない?、走りづらくない?と思うことが多く、接地について自分の考えをまとめたいと思い、今回の題材にしました。
私は、過去に小学生から高校生を対象に数年間だけ指導者をしていました。
全国大会優勝2名
全国大会出場11名
という指導実績でした。
指導者としての指導経験を踏まえて、書いていきます。
速く走るためには、接地の際に体を進める必要があります。
体を進めるためには、接地するポイント(場所)と、その際の体のポジションがとても重要だと考えています。
では、どのような接地が体を進めるためには必要なのかを考えていきたいと思います。
真下接地とは理想なのか?
短距離のスプリント指導時によく耳にする言葉の一つに「真下接地」というものがあります。
指導する側、される側、それぞれの立場の人がいらっしゃると思いますが、聞いたことはないでしょうか?
では、まずは真下接地とは一体どんな接地のことなのでしょうか?
おそらく走っているときに「地面の真下で接地を行い、ロス動作となる無駄なブレーキをかけないように」や、「身体の真下に足を着き、無駄な上下動を少なくし、しっかりと軸をつくる」などの意図で使われることが多い言葉ではないかと思います。
私自身も上記のような指導を受けたことがります。(そんな指導をしたことはありません。)
しかし、「真下に接地しなさい!」と言われただけでは、何をどうすればいいのか良く分からないし、何が正解なのかも分からない・・・・・という選手も少なくないはずです。
(実際、私も同様に感じたことがあります。)
一方で、指導者側も、「真下接地」が、具体的に選手の動きがどうなればいいのか、どんな接地が理想で競技力向上につながるのか、実際のところよく理解できていないという方も少なくないと思います。
そこでここでは、理想の接地について、いろいろと考えてみたいと思います!
今後のトレーニングを考える際の材料にして頂けると幸いです。
真下接地って正しいの?
厳密には、走っているときに「真下接地」をするというのはありえないと考えています。
理由を書いていくにあたり、まずは真下接地とは何の真下を指している言葉なのでしょうか?
ここでよく言われるのが「重心の真下」です。
ただ、中間疾走、または身体が起きた状態でスピードを出して走っている時に、身体重心の真下に接地をしてしまうと、前に転んでしまいます。
なぜなら、重心の真下に足を接地して、地面を押して体を進めようとすると、身体全体にかかる前回転の力が大きくなりすぎ、バランスが保てなくなるからです。
これはイメージしてもらいやすいのではと思います。
したがって、よく耳にする「重心の真下に接地しなさい」は、本当に重心の真下に接地しなさいというわけではなく、「身体重心に近い位置での接地を心がけてくださいね」ということを意図したものであるのではないかと考えることができます。
まずはこの原理を理解しているかは重要であり、指導者のレベルを見定めるにあたっても重要な指標かもしれません。
だからこそ、真下接地とはいったい何なのかを理解していることは、とても重要なことです。
理論が理解できていないと、トップアスリートの動画を参考に「身体の真下に接地できていない。真下に接地しなさい。」と、非論理的な指導を行ったり、真に受けたりしてしまうからです。
接地で求めたいイメージ
では、短距離を速く走るために求めたい接地はどんなものなのかを書きたいと思います。
接地脚に身体ごと寄っていくイメージ
接地脚に、身体が寄っていくと私は表現しています。
どういう意味かは、以下の2つの動画を見比べていただき、確認ください。
乗り込み動作(1)の動画は、接地脚に身体全体が寄っていくような接地の方法です。
乗り込み動作(2)の動画は、接地脚で地面を体側に寄せよう(ひっかき動作)として、乗り遅れてしまっている接地の方法です。
見比べていただければ、走っているときの姿勢や、接地していく動作が異なっていることが分かると思います。
乗り込み動作(1)の方が、次の一歩を出す準備が取れていますが、乗り込み動作(2)については、遊脚のスイングが遅れてしまっているので、これでは次の脚がスイングされるタイミングがずれているので、スピードアップにつながりません。
何故なら、身体のかなり前に接地をしようとしているため、ブレーキのかかる時間が長いからです。
いわゆるベタ足と言われる接地になってしまっているからです。
つまり、必要以上に前方に接地しないようにすることがとても重要なのです。
また、豊嶋と桜井(2018)の研究では、身長に対するストライドが同程度で、高いピッチを発揮している(つまり足が速い)選手は、身体重心により近い位置で接地を行っていることが報告されています。
速く走ろうとすれば、必然的に接地時間が短くなります。そのため、速度を上げて走ろうと思ったら、必要以上に身体重心の前方に接地して、長い時間かけてブレーキを起こすことは痛手になるはずです。
なので、可能な範囲で身体重心の近くに接地して、「短時間で最小限のブレーキをかけられる」ようにすることが、おそらく必要になります。そのために、「真下接地」という言葉が、動作の改善に有効に働く場面があるということなのではないでしょうか?
実際の走パフォーマンスと真下接地の関係は?
ここまで散々「真下接地は重要そうだ・・・」ということを紹介してきましたが、では実際にパフォーマンスが高い人は真下付近に接地できているのでしょうか?
先述の通り、身長に対するストライドが同程度で、高いピッチを達成できている選手では、身体重心に近い位置で接地できていることが報告されています(豊嶋と桜井,2018)。
また、井上(2013※紀要)では、接地時の圧力中心と身体重心を結んだ線分の角度が大きいほど(身体重心に近い位置で接地しているほど)、ブレーキの力積が小さく、疾走速度が高かったという結果が得られています。
つまり、足が速い人(特にピッチが高い人)は、身体重心の近くに接地して、最小限のブレーキで走ることができているかもしれない・・・というわけです。
しかし、逆に接地位置なんか関係ない、速く走ろうとすればむしろ、ブレーキは必然的に大きくなる!とする研究も存在します。
例えば、福田と伊藤(2004)の研究では、身体重心に対する接地位置の近さと疾走速度との間に、有意な相関関係はみられなかったという研究結果もあります。また、トップスプリンターになればなるほど、接地時のブレーキ力も推進力も大きかったことから、相対的に速く動く地面に対して、短時間のうちに大きなブレーキと推進力を発揮できることの重要性が主張されています。
つまり、長い時間ブレーキをかけるような接地は望ましくないということは言えるのではないかと考えています。
接地が身体から遠すぎる位置であっても、身体の真下であってもスピードは高めることは難しいとは言えると思うので、それぞれの自分にあった接地ポイントをさぐる必要がでてくると思います。
上記のお話をだいたい理解できていれば、次に紹介する「真下接地」での注意点についての理解が進みやすくなるはずです。
理想の接地を目指すために!!!
では、理想的な接地を求めるためには、「具体的にどんな形になればいいの?どんなトレーニングが有効なの?」という話に入っていきます。
接地脚に寄っていくようなイメージの接地
接地脚に対して、全身が乗っていくようなイメージを持てるか、そして体で表現できるかがポイントです。
もう一度、動画を参考にしてください。
乗り込み動作(1)は、体重を臀部で受け止めるようなイメージで走っています。
乗り込み動作(2)は、膝の振出が強く、接地時に膝で体重を受け止めようとしています。
そして、違いは、乗り込み動作(1)よりも、乗り込み動作(2)の方が、身体よりも遠い位置で接地しています。
ということは、ブレーキの時間が長く、かつ接地脚に対して身体が乗り遅れている為、体の中心部分で体重を受け止められていない状態となり、接地で重心を移動するパワーが発揮されずスピードの減速につながる状態なのです。
乗り込み動作(2)は、乗り込み動作(1)と比べると、接地時に遊脚や上半身が遅れたままになっているので、接地時間は長く、短時間で大きなブレーキを加えることが難しく、スピードを高めることが困難です。また、100m走など、短距離走の後半の速度低下時にも、遊脚の回復が遅れて、接地が身体重心のより前方になる動作に近づくことも報告されています(遠藤ほか,2008)。この動作は乗り込み動作(2)に近いものだと言えると思います。
一方で乗り込み動作(1)は、遊脚や上半身の振り込みのタイミングが早く、それらが上向きに早期に加速することで、接地の瞬間に地面鉛直方向に力が伝わりやすいフォームだと考えられます(豊嶋と桜井,2019)。
したがって、理想の接地とは、「接地点に対して、身体が寄っていく」というイメージを持ってアプローチする方がオススメだと考えています。
理想の接地を身に付けるためには?
私は、接地の感覚を大切にしていました。
接地時に、体のどの部分で体重を受け止めるか?というイメージを持つことが非常に重要だと言えると考えています。
その為、イメージを身体で表現することができるスキルが必要になってきます。
実際、私は小学生から高校生まで指導を行っていましたが、指導させてもらった選手達は後半のスピード維持が大変上手く、小学生でも実践できた為、イメージときっかけを掴むことがとても重要だと考えています。
では、「理想の接地=接地点に身体が寄っていく」を可能にするスキルトレーニングを最後に紹介しておきます。
歩き動作
歩くことからはじめることは非常にオススメです。
歩く際に、体重を体のどこで受け止めているかを感じながら歩くことを毎回の指導で絶対に取り入れていました。
臀部でしっかりを体重を受け止められているのか?
感覚を探りながら、歩くことは非常に大切です。
歩きで感覚が掴めないと、スピードが高い状況である、走っている状態では感じることは難しいからです。
身体よりも遠すぎる位置で接地すると歩く動作じたいがぎこちなく、大股歩行のようになってしまいますし、体重を受け止めることを気にしすぎると、膝が突っ張ったり、力が入ったりと、とても参考になります。
上記のイメージが慣れてきたら、次は片足だけを意識を持って、体全体で接地脚に乗り込んでいくというのも発展形でオススメです。
上手くいけば、自然と歩行スピードが高まり、歩き続けられなくなり、走りに近づいていきます。
何故、両足ではないかというと、両足をイメージすると、なかなか上手くいった経験がないためです。
自分のあう方法で試していただければと思います。
一度試していただけると幸いです。
スピードを乗せて行う
歩くなかで行っていたことを、次はスピードをのせて行います。
歩くのとイメージは同じため、それを走りのなかで行うのです。
イメージは、接地の際に体重を受け止める箇所と感覚をまずは第一に意識しながら行うことが重要です。
私は、如何に四頭筋に負荷がかからないかを確認ポイントにおいています。
四頭筋に負荷がかかるのは、接地位置が遠すぎることが原因で、乗り遅れている証拠です。
その為、体の反応を見ながら、泥臭く、繰り返し自分にあった理想の接地を作り上げていくことがオススメです。
参考文献
・豊嶋陵司, & 桜井伸二. (2018). 短距離走の最大速度局面における遊脚キネティクスとピッチおよびストライドとの関係. 体育学研究, 17008.
・井上雄太. 短距離走における疾走速度と減速との関係―身体の起こし回転運動に着目して―. 平成24年度 修士論文 抄録 , 愛知教育大学保健体育講座研究紀要. 2012, 37, p. 70-72.
・福田厚治, & 伊藤章. (2004). 最高疾走速度と接地期の身体重心の水平速度の減速・加速: 接地による減速を減らすことで最高疾走速度は高められるか. 体育学研究, 49(1), 29-39.
・遠藤俊典, 宮下憲, & 尾縣貢. (2008). 100 m 走後半の速度低下に対する下肢関節のキネティクス的要因の影響. 体育学研究, 53(2), 477-490.
・豊嶋陵司, & 桜井伸二. (2019). 短距離走の最大速度局面における滞空比と上肢および回復脚の相対鉛直加速力との関係. 体育学研究, 17126.