今回のssyブログでは、短距離を速く走るために100m走を考えるをテーマに、いろいろと考えていきたいと思います。
昔、小学生から高校生を対象に指導者をしており、
全国大会優勝2名
全国大会出場11名
という指導実績でした。
その指導者としての経験を踏まえて、書いていきます。
もし短距離を速く走りたいと思っていらっしゃる方がご覧の場合は、参考にしていただければ幸いです。
では、まず100mを速く走るための要素について考えていきたいと思います。
短距離を速く走るための要素とは
(Delecluse et al.1995)によると短距離走は加速局面,中間疾走局面,および減速局面の 3 局面に分類されていると報告があります。
実際、このような話は聞いたことのある人は多いかと思います。
文字通り、加速し続けられないのです。
(土江 2017)によると、50~60m 付近で最高走速度が発現することが多いとのことで、方向があります。
例外はあるにせよ、だいたいの選手は100mが50~60mになってくると思います。
つまり、加速はし続けないのです。
よく後半型と言われる方がいらっしゃると思いますが、スピード維持の能力が高いということになります。
つまりはスピード維持しやすいだけで、後半は必ず失速しているのです。
では、この3局面でそれぞれ求められることはどんなことなのでしょうか?
加速局面について
(小林ほか、2009年)によると、加速局面において、一流短距離選手の疾走速度とストライドは対照群(11秒台の選手)よりも有意に高く、疾走速度の変化量とストライドの変化量との間には有意な正の相関関係が認められた。
と報告されており、
また、伊藤(1994)によると、ある一定の競技レベルまで達したスプリンターは、ピッチではなくストライドが疾走能力に強く関係すると報告されています。
ピッチはもちろん重要なのですが、それよりも加速局面では、如何に自然とストライドが大きくなるかが疾走速度と大きな関係があると言えるようです。
では、ただ単にストライドを大きく走ろうとしてしまうと、、、、
ピッチを減少させてしまったり、パワーが推進方向ではなく、上方向に逃げてしまう等、弊害が考えられます。
つまり、目に見えているものを真似るのではなく、本質を紐解く必要があると考えています。
では、どうすればいいのでしょうか?
加速局面で求めたいこと
重心移動を上手く使うことで、加速局面を自然と加速していくことが重要だと考えています。
なぜなら、止まっている状態からスタートをするということは、それだけ大きなパワーが必要となります。
実際、スタートの一歩目を大きく踏み出しなさいと指導を受けたことがある方が多いのではないか?
と思いますが、これは本質を理解していないとパワーロスにつながると考えています。
では、重心移動を上手く使うというのはどういうことなのでしょうか。
考えていきたいと思います。
重心を先行させる
重心を移動させるとはどういうことでしょうか?
簡単に考えてみてください。
重心と言われる体の部分、男性はへそ下3cmぐらいの部分をイメージしてください。
この重心部分の移動が、動き出しのはじまりとなる第一動作となりたいのです。
何故かというと、足が重心よりも先に動き出してしまう状態だと、適切な位置に接地できずに、儒うんよりもかなり前に接地することになり、ブレーキになります。
この状態では、ブレーキ時間が長く、スピードを高めるのがとても難しくなってしまいます。
また、脚が先に動き出すことは重心が上手く動き出すきっかけとして利用するであれば問題はないのですが、まずは重心移動を第一動作とする癖づくりをするために、重心から動き出すトレーニングを行うことで加速局面の疾走速度を高めることにつながると考えています。
以下のようなトレーニングからきっかけや感覚をつくることをお勧めします。
動き出しは重心が移動することをきっかけとします。
このときのポイントとしては、
・重心から動き出す。
・自然と脚がでる反応を利用する
・脚は高くあげない。
・腰幅で構える。
・シューズの外側が推進方向に向く
・骨盤前傾(上体前傾)で構える。※角度は浅くて構いません。
・重心が移動する勢いを利用して走っていく。
となります。
ポイントが多いですので、まずは構えは同じで重心移動きっかけのスタートで歩くことからはじめてもらえれば感覚的には掴みやすいかもしれません。
重心移動をきっかけとして走ることでどのようなメリットがあるのかというと、
重心移動をきっかけとして走り出すことで、地面を自然と骨盤が押さえることにつながり、体重がしっかりと軸足に乗ります。
そうすることで、想像以上のパワーが出力され、ロスのなくスピードを高めることが可能となりるのです。
これは、実際に試していただくことが理解する一番の近道かもしれません。
中間疾走局面について
中間疾走とは、30~60mのことです。
この距離は一番スピードが乗っている区間でもあると考えています。
だいたいの選手が40~50mぐらいがトップスピードをむかえると言われています。
私が指導者をしていた際は、指導させていただいていた選手の多くは、この区間からゴールまでを得意としていました。
では経験をもとに考えていきたいと思います。
(小林,2011)によると加速局面前半に大きな走加速度を獲得することが,加速局面中盤以降の走速度の有意差につながることが示されたという報告があります。
上記から、中間疾走局面、減速局面についは、加速局面での大きな走加速度を獲得する必要がある、つまりは、スタートしてから加速度が高まらない(スタートが速いということではない)と中間疾走局面からゴールまでは速く走るのが難しいですよということです。
この内容から、私は加速局面を重点的に指導していました。
例えば、基本的には30mという距離を如何に重心移動をきっかけとして走りだし、スピードを高められるのかに注目していました。
その為、30mで上手く走れない場合は、それ以上に長い距離を走ることは控えるようにしていました。
それだけ、上手く加速局面で走加速度を獲得することが重要なのです。
とはいえ、中間疾走はどのようにして走るのか?ということも気になるところではあるので、こちらも考えていきたいと思います。
中間疾走はどのようにして走るのか
中間疾走では、以下を重点的に指導していました。
・姿勢
・臀部で体重を受け止める。
上記、二点をおさえるだけで、中間疾走はかなりスムーズに走れるようになると考えています。
何故なら、この中間疾走で上手く走れない人の特徴として、姿勢が既に崩れてしまっており、足が流れるという状態ができあがってしまっていると考えています。
そして足が流れるって、そもそも身体ポジション=姿勢が作れていないからだと考えています。
他にも要素があるとは思いますが、まずはこの姿勢を正すことで多くの場合は解決できると考えていますので、試してみてください。
では、姿勢を考えていきます。
姿勢について
姿勢って気にしていますか?
・腰を高く
・骨盤前傾
・胸を張って
等、いろいろと考えていらっしゃる方が多いと思います。
また、上記のような指導を受けているという方も多いのではないでしょうか。
ここでは一旦、上記を忘れてください。
そのうえで、以下を試してみてください。
・背中に力が入らないように立つ
・お尻で体重を受け止めやすい姿勢をつくる。
・取った姿勢がそのまま水平移動しても変わらないようにイメージ
これがポイントだと考えています。
そすると、こういう姿勢にイメージが近づくのではないでしょうか?
このような姿勢が取れずに、背中が反って背中に力が入ったり、お腹が丸まってしまったり、すると以下のような姿勢になってしまいます。
これは臀部で体重を受け止めるには、姿勢が崩れてしまっており、軸足が重心の前すぎる位置で接地してしまっています。
これでは、もう足が流れてしまっている状態です。
こうなると中間疾走でスピードを高めることは難しくなります。
また、減速局面においてもかなり不利な動作サイクルとなっています。
臀部で体重を受け止める
私は指導者をしてい際に、接地の際に、しっかりと体重を臀部で受け止めるということを重点的に指導していました。
何故なら、スピードを高めるために、接地の際に、地面を叩くということをしたくないからです。
地面を叩くというのは、末端部分で地面を叩き、体重が軸足にしっかりと乗らない状況のことです。
叩いてしまうことで何が弊害となるかというと、体重が軸足に接地のタイミング乗り切らない=重心よりかなり前の位置で接地してしまうことにつながり、長い時間ブレーキをかけて、スピードを高めることができないからです。
(井上、2013)では、接地時の圧力中心と身体重心を結んだ線分の角度が大きいほど(身体重心に近い位置で接地しているほど)、ブレーキの力積が小さく、疾走速度が高かったという報告があり、
また、
(福田、伊藤、2004)の研究では、身体重心に対する接地位置の近さと疾走速度との間に、有意な相関関係はみられなかったという研究結果もあります。また、トップスプリンターになればなるほど、接地時のブレーキ力も推進力も大きかったことから、相対的に速く動く地面に対して、短時間のうちに大きなブレーキと推進力を発揮できることの重要性が報告されています。
上記、2点から、長い時間ブレーキをかけるような接地は望ましくないということは言えるのではないかと考えています。
つまり、短い接地時間の中で、一瞬の大きなブレーキをかけることが必要になるのですが、ブレーキと考えるよりも接地の際に、体重をしっかりと乗せるという意識づけが必要だと考えています。
その為にも、臀部で体重を受け止めることができれば、短い接地時間の中で、地面に対して大きなパワーを自然と加えることができると考えています。
末端でおこなってしまうと体重も乗らないず、接地時間も長くなってしまうため、改善することをお勧めします。
減速局面について
60m~ゴールまでの区間です。
ここは、誰もが減速する区間なのです。
あの世界記録保持者のウサインボルトでも、この区間は減速が起こっています。
この減速区間を上手く走るためにはどのような要素が必要になるのか、考えていきます。
減速区間での減速をおさえるためには
(阿江ほか,1994)最大スピードが高いほど最高スピード到達地点はスタートから遠くなるという報告があり、
かつ、
(小木曽ほか,1998)によると、最大スピード到達までの時間は最大スピードが高い人も低い人もあまり変わらず、どの選手も6秒前後で最大スピードに到達するという報告があります。
この2点の報告から、中間疾走局面でも書きましたが、速局面前半に大きな走加速度を獲得することが、加速局面中盤以降の走速度に影響するのです。
加速度を高めないと後半走れないということです。
つまり、動作としては、長い距離を走ることも大切なのですが、そもそも30mしっかりと走れていますか?
ということにつながってくると考えています。
この減速区間も動作的には、中間疾走と変わらず同じことを続けていくイメージです。
まとめ
これまで書いた私の考えはあくまで、考え方のひとつだと思いますので、いろいろなことわ肉付けしてみたり、試してみるなかでご自身にあったトレーニングを行っていくことが大切です。
そして短い距離も、長い距離もバランスよく走ることが重要ですが、30mを上手く走ることが100mの後半のスピード維持にもつながってくるということをおさえてトレーニングに励むことをお勧めします。
実際、私が指導者として指導を行っていた際、30mを一番大切にしていました。
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参考文献
Delecluse CH, Van Coppenolle H, Willems E, Van Leemputte M, Diels R, Goris M (1995)
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土江 寛裕(2017)
日本人トップスプリンターのバイオメカニクス的特長とその変化~桐生祥秀選手の事例的研究~
小林海, 土江寛裕, 松尾彰文, 彼末一之, 礒繁雄, 矢内利政,金久博昭,福永哲夫, 川上泰雄(2009)
スプリント走の加速局面における一流短距離選手のキネティクスに関する研究
井上雄太(2012)
短距離走における疾走速度と減速との関係―身体の起こし回転運動に着目して―. 平成24年度 修士論文 抄録 , 愛知教育大学保健体育講座研究紀要. 2012, 37, p. 70-72.
伊藤 章・斎藤 昌久・佐川 和則・加藤 謙一・森田 正利・小木曽 一之 (1994)
世界一流スプリンターの技術分析㸬日本陸上競技連盟強化本部バイオメカニクス班編㸪世界一流競技者の技術㸬第 3 回世界陸上競技㑅手権大会バイオメカニクス班報告書㸬ベースボールマガジン社㸪pp. 31–49.
福田厚治, & 伊藤章. (2004).
最高疾走速度と接地期の身体重心の水平速度の減速・加速: 接地による減速を減らすことで最高疾走速度は高められるか. 体育学研究, 49(1), 29-39.
阿江通良ほか (1994)
世界一流スプリンターの 100 m レースパターンの分析―男子を中心に―. 世界一流競技者の技術.
第 3 回世界陸上選手権大会バイオメカニクス班報告書. 日本陸上競技連盟強化本部バイオメカニクス班編. ベースボールマガジン社: 東京 (1994): 14-28.