坂ダッシュの効果について考える

トレーニング

今回のssyブログでは、以前に記載した坂ダッシュの効果について更に少し深く書いていきたいと思います。
走っていらしゃる方は、今後の練習
指導者の方は、今後の指導
に参考になれば幸いです。

指導者として、全国大会出場11名、全国大会優勝2名の輩出の指導実績があります。
いろいろな理論や指導方があるなかで、ひとつの判断材料にしていただければと思います!

坂ダッシュの効果を考える

坂ダッシュの効果とは何かを考えていきます。
というのも、坂ダッシュすれば体に負荷がかかるから、またはトップアスリートが坂ダッシュしているからという理由で、トレーニングの本質を理解せずに坂ダッシュをするよりも、理解をしてトレーニングを使い分けていくことで努力の方向性を整えていくことは大切だと考えています。

坂ダッシュのメリットは、
脚のさばきが速くなる、スイングが速くなるなど、いろいろと言われているかと思います。
では、実際に坂を活用したスプリントトレーニングで得られる効果について考えていきます。

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坂を使用したスプリントトレーニングについて

(Paradisisand Cooke, 2006; Paradisis et al., 2009)によると、
上り坂のみのトレーニングを実施した場合は、トレーニング前後ではその前後で疾走速度の有意な増加が認められなかったが、上り坂と下り坂を組み合わせたトレーニングプログラムでは疾走速度の有意な増加がみられたと報告しています。

上り坂のトレーニング効果で疾走速度の有意な増加がみられなかったのは驚きでしたが、感覚的には理解できる部分もあります。
ただ、上記の報告はあくまで上り坂の傾斜の違いによる検証は行われてはいないのです。
では、坂の角度によって違いはあるのか?
こちらも考えていきたいと思います。

坂の角度で異なる効果

私は、傾斜が小さい坂を好んで使用します。
個人的な考えや、感覚としては、如何に平地に近い状況でトレーニングするか。
もしくは、平地で走る際の体の使い方を再現し習得できる状況なら、傾斜は大きくても問題ないと考えています。

では、坂の傾斜の違いにより、どのような違いがあるかみていきましょう。

杉本ほか(2014年)によると
水平距離に対して鉛直距離が1.3±0.1%(約0.7度),7.4±0.2%(約4.2度)および13.1±0.1%(約7.4度)となる 3 種類の傾度の上り坂を用いて、検証を行ったところ、0.7度の坂は、平地と同程度の高速度でのスプリント走トレーニングが可能だが、接地期における足関節の伸展動作が大きくなっていた。

という報告があります。

この報告から、
伊藤ほか(1998)によれば、
疾走速度と足関節の伸展角速度には負の相関関係があると報告しており,疾走速度の高い選手ほど足関節の伸展が少ないと報告している.

つまり、速く走れる人程、足首が地面から離れる際に伸展しにくく、股関節の伸展を上手く地面に伝えて、走れているということです。

傾斜がない坂でのスプリントトレーニングは、平地と変わらないスピードを出しながらも、特に足首関節を使ったロス動作も見られていることから、この点に注意をしながらトレーニングをする必要があります。

その他にも、杉本ほか(2014年)によると
上り坂では、傾度が増大するにしたがい接地期の膝関節の伸展動作がより優位となる疾走動作へと変容していた。
との報告があります。

これは、(伊藤ほか,1998)によると
膝関節の伸展動作は、平地での中間疾走局面において疾走速度獲得の妨げになる

と報告されていることから、坂の角度が高まれば高まる程、膝の伸展力を頼った走りになってしまうため、坂の角度を理解して、求めている効果を得られるトレーニングを選択すべきとだと考えています。

坂の角度の違いによる疾走動作の変化

杉本ほか(2014年)によると、

①傾斜が大きくなるほどストライドが減少し、疾走速度が低下する。
②傾斜が大きくなるほど下腿の振出を抑えるが、一定の傾斜の大きさをこえると、下腿を引き戻した動作となり、膝伸展優位の脚の流れるような動作になっていく。
③傾斜が小さく平地に近い坂だと、スピードを高めたトレーニングになるが、足関節(足首)の伸展が高まるため、考慮する必要がある。一方、傾斜が大きい坂でのトレーニングでは、ピッチが高まるため加速期のトレーニングにはなる。

ということが報告されています。

傾斜が約1度の坂を利用したダッシュ
傾斜が約3.5度の坂を活用したダッシュ

結論

傾斜が大きい坂を使用してのスプリントトレーニングは、長くても30m程の活用にとどめることをオススメします。
理由としては、傾斜が高まる程、膝の伸展や、重心よりも遠い位置での接地につながる傾向があるからです。
以前のブログでも記載をしましたが、重心よりも前すぎる位置での接地は、ブレーキをかける時間を長くするため、スピードを高めることが難しいからです。


その為、坂を走れば速く走れるのではなく、自分の動作の何を改善したいのかで、傾斜の大きさを使い分け、自分にあったトレーニングをすることをオススメします。
坂を使用すれば、下腿の振り出しが少なくなり、動作の矯正になると思います。
だからこそ、自分自身、又は、指導者なら選手の
どのような動作を矯正したいのか、それが坂ダッシュは有効なのか?
傾斜はどうすればいいのか?等をしっかりと考え使い分けることが非常に大切だと考えます。

使い分けることで、平地で走るのに大切な動作改善につながると考えています。

目的は、競技場で速く走ることですので、如何に平地で速く走れるかを考えトレーニングをつんでいくことが大切だと考えています。

参考文献

(1)Paradisis, G. P., & Cooke, C. B. (2006). The effects of sprint running training on sloping surfaces. Journal of Strength and Conditioning Research, 20(4), 767.
(2)伊藤 章・市川博啓・斎藤昌久・佐川和則・伊藤道郎・小林寛道(1998)100m中間疾走局面における疾走動作と速度の関係.体育学研究,43:260-273.
(3)杉本 祐太・前田 正登(2014)上り坂疾走における傾度の違いが疾走動作に及ぼす影響

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